2025年、重症熱性血小板減少症候群(SFTS)の患者報告数が過去最多を記録しています。
国立健康危機管理研究機構が公表した感染症発生動向調査の2025年第42週(10月13日〜10月19日)時点では、2025年の患者報告数は174例で、これまで最多であった2023年の134例を大きく上回っています。
さらに、これまで報告がなかった北海道・秋田県・栃木県・茨城県でも孤発例が確認されており、SFTSの感染リスクが全国的に拡大していることがうかがえます。
【SFTSとは? ― ダニが媒介する新興感染症】
SFTS(Severe Fever with Thrombocytopenia Syndrome)は、SFTSウイルスによるダニ媒介性の感染症で、2013年に日本で初めて確認されました。
潜伏期間は6〜14日程度で、以下のような症状があらわれます。
・発熱、消化器症状(嘔気、嘔吐、腹痛、下痢、下血)
・頭痛、筋肉痛、神経症状(意識障害、けいれん、昏睡)、リンパ節腫脹
特徴的なのは、病名の通り血小板の著しい減少(10万/mm³未満)がみられることです。
致死率は10〜30%と高く、国内の感染症の中では劇症型溶血性レンサ球菌感染症(致死率約30%)に次ぐ重篤な疾患です。
【西日本を中心に増加 ― 冬でも発生報告あり】
過去10年間で患者数が最も増加したのは、三重県で、次いで島根県、岡山県、大分県、熊本県の順となっています。
西日本では、患者発生率と農地面積、農業人口に有意な関連があるとされ、発生のピークは5〜6月、流行期は5〜10月が中心ですが、近年は冬季にも報告があり、SFTSは「春から秋だけの感染症」ではなく、通年で注意が必要な疾患となりつつあります。
【感染源は野生動物とマダニの連鎖】
野生動物のSFTS抗体陽性率は、アライグマ、アナグマ、シカ、ノウサギでは30%以上、ハクビシンでも20%以上との報告があります。
これらの動物を吸血したマダニが、動物の移動とともに人間の生活圏近くで落下、定着して、そこで人間がマダニに咬まれることで感染者が発生していることが想定されています。
【SFTSに対する治療薬として「ファビピラビル(アビガン)」が承認 】
2024年に抗ウイルス薬のファビピラビル(商品名:アビガン)」が承認されました。
臨床試験では致死率が13〜17.4%に低下したものの、エビデンスは十分ではなく、薬価が非常に高額でもあり、現場では慎重な判断が求められています。
【まとめ ― 「油断できない」感染症としてのSFTS】
SFTSの患者報告数は年々増加し、地域も拡大しており、冬でも発生が続く現状は、SFTSがもはや一部地域だけの問題ではないことを示しています。
草むらなどマダニが多く生息する場所に入る場合には、
・長袖・長ズボンの着用
・サンダルのような皮膚を露出するようなものは避ける
といったマダニに刺されない基本的な防御策を心がけましょう。